法政大学教授の児美川孝一郎先生の『若者はなぜ「就職」できなくなったのか?』と編著『これが論点!就職問題』を読んで、刺激を受け、またいろいろと考えさせられました。

まず、志木サテライトオフィスで私たちが行っている公的な職業訓練ですが、これを生涯教育(リカレント教育)の一環として位置付ける、という見方もあるでしょうが、高校や大学で行っている「職業教育」や「キャリア教育」という枠組みで捉えるのが妥当だろうな、と改めて思ったという事。

そのキャリア教育(職業教育)についても論じられているのが『若者はなぜ「就職」できなくなったのか?』なのですが、その点についての児美川先生の論旨と提言はとても明確で、「学校教育では、職業的レリバンスの強化が必要だ」となります。

職業的レリバンスとは、教育が職業とどう結びついているか、というその関係性のことを指します。

日本では、この職業的レリバンスが極めて軽視されてきており、その理由は、大学に職業的な能力の養成は期待されてこなかったからだとされます。

大学卒業時に求められるのは、職業能力ではなく、会社に入ってからどれだけその会社の色に染まれ、会社なりのスキルを身に付けられるかという「訓練可能性(trainability)」だという事になります。余談ですが、それが、「訓練可能性」を簡易に測定できる方法としての学歴主義(どこの大学や高校を出たかという偏差値で一元的に測れる尺度の重視)につながってきたわけです。

そして、その背景には、終身雇用制度のもとで、正社員を一括して新卒者から採用するという、日本的な経営の慣行があったわけです。

 

しかし、現在、その「終身雇用制度」はほぼ崩壊し、新卒者のほとんどが「正社員」になれるという時代は既に終焉しています。だから高校や大学の教育も必然的に変わらなければいけない → 職業的レリバンスの強化を、という提言にもつながってきています。

 

一方、非正規雇用が増加する中で、以下のように労働環境は改善されるべき、という提言もされています。

1)「同一労働同一賃金」の原則のもと非正規雇用者の賃金が改善され、失業保険や社会保障の面でも不利にならないような措置が取られる事。

2)採用における「新卒」主義が改善され、正社員をめざす転職者にも均等な門戸が開かれるようになる事。

3)非正規雇用者にも企業内訓練の機会が提供され、企業外にも職業教育訓練の機会が拡充される事。

4)同一企業内での職務経験だけが評価されるのではなく、企業横断的な職業能力や専門性が評価されるような外部労働市場が形成される事。

 

その通りだと思います。

志木サテライトオフィスの職業訓練で学んでいる人たちにも、この4つの提言はみな関わってきます。

 

1)は、政治レベルでの問題も関わってきます。いまやっと法制化への端緒が開かれたというところでしょうか。

2)の新卒主義は今も根強いですが、高卒新卒者の5割、大卒新卒者の3割が3か月以内に退職するという現状を企業(とくに大企業)はどう受け止めているのでしょうか? 確かにもっと大手企業には、中途正社員採用に門戸を開いてほしいと思いますが、一方で中小企業では、すでに開かれている、とも言えます(というか、新卒者がどうしても欲しい、などという甘い事は言えないという状況)。

3)にある「企業外の職業教育訓練の機会」を私たちは提供しているんだという使命感をもって、今後も公的職業訓練を行っていきたいと、思いを改に致しました。なんといっても「職業的レリバンス」がもっとも高い訓練を提供しているのですから。 また今後は他の企業さまに向けての社内訓練も、いま以上に提供していく所存です。

4)「企業横断的な職業能力」については、職業訓練でも、国が定めた評価基準を大方採用して、訓練時の評価を3段階評価で実施しているのですが、それが企業に評価されているかというと、まったくそうではありません。企業としては、せいぜい見るのが「取得資格」欄です。一般には、今までの職歴がもっとも重視されます。Webデザイナー養成科では、デザイン事務所などでは、即戦力が欲しいために、今までに制作した作品の出来栄えが評価されるという傾向もあります。職業訓練で身に付けたスキルが、もっと企業に評価されるようにしていきたい、という希望は常にありますので、今後も職業訓練校としての努力を続けてまいります。