私が現在所属している東京中小企業家同友会の
2021年新年大賀詞交換会では、
『偽りの生産性改善論を超えて真の生産性改善へ!』
という演題での基調講演が行われました。

島澤諭氏(公益財団法人中部圏社会経済研究所研究部長)
のお話だったのですが、経済企画庁におられたことも
ある方で、実証的に「生産性改善論」を批判、論駁
されていました。

「生産性改善論」は、菅総理のお気に入りと言われている
デービッド・アトキンソンが、
日本の中小企業は生産性が低いので、整理統合が必要、
と唱えているものです。

これに対して、島澤氏は、
「より正確なエビデンスに基づけば日本の労働生
産性は上昇している」として、アトキンソンと
同じローデータ(元データ)を用いて作成した
アトキンソンとは異なったグラフを提示。

日本の「時間当たり労働生産性(実質)」
は上昇している、
つまりアトキンソンは事実誤認をしている、
としました。

さらに、
「労働生産性には意味はない。
“全要素生産性こそが大事”」との論を展開。
その展開は、以下のようなものでした。

「労働生産性」とは、労働者が1時間当たりど
れだけ生産を行っているか(いくら稼いでいるか)
を表しているが、そもそも生産は労働投入だけで
行われるのではない。
機械設備も使えば、経営者の手腕も影響する。

経済学の世界では、労働力、資本ストック、
技術(インプット)を用いて、生産(アウトプット)が
行われていると考える(生産関数)。

つまり、労働力に着目したのが
労働生産性(生産額÷労働投入量)に過ぎず、
その他に、資本ストックに着目した
資本生産性(生産額÷資本投入量)がある。

この「資本生産性」は、日本は諸外国と
較べて高いのだが、

これは、島澤氏によれば、日本は
圧倒的に中小企業が多いからということに
なる。大手企業のように大きな資本を
投入できないなかでも生産額を頑張って
あげているというわけだ。

労働生産性と資本生産性は表裏一体の関係にあり、
労働生産性が高ければ資本生産性は低く、労働生
産性が低ければ資本生産性は高い、ことになるそうだが、

大企業で、労働生産性が高くなっているのは、
要は、人員をカットしているから、とのことで、
これは「偽りの生産性向上」ではないか、と氏は言う。

日本の大企業が、中小企業よりも
労働生産性が高い、というのは、要は
人員削減を行って、偽りの向上を図っているだけ、
というわけだ。

一方、日本の中小企業は、
雇用も増やしつつ、付加価値を増やしている。

<付加価値÷労働者数>を普遍的な生産性指標と
すれば、
付加価値 = 売上高 − 生産コスト(人件費・物件費)
として示せるが、デフレ不況が長引く中でも、
この付加価値を上げてきたのは日本の中小企業だという。

日本経済をけん引し、雇用の下支えをしてきたの
は、大企業(とくに製造業)というよりは、
中小企業に他ならない。
アトキンソン氏の「大企業ほど労働生産性が高い」
「日本経済のけん引役」という認識は誤り、
と結論する。

但し、中小企業における売上高の減少は、問題である、
と氏は続ける。

ところが、その原因は中小企業自身にあるのではなく、
下請け企業を買いたたいてきた大企業にあるという。

短期利益中心の株主を最優先する大企業の姿勢も
問題で、つまり「日本の生産性低迷は、中小企業の問題
ではなく、大企業の問題。」とする。

日本の生産性が低いのは大企業が中小をいじめている
から、であり、決して中小企業を統合したらいい、という
話ではない、ということ。

へたをすると、貴重な中小企業という資源が、
また、外資のハゲタカに食い荒らされる、ということ
にもなりかねない。

そんな危惧を抱いた今年初の中小企業家同友会の
イベントでした。