キャリアコンサルタント養成講習などで、大変お世話になっている法政大学名誉教授の諏訪康雄先生が代表を務めるNPO法人キャリア権推進ネットワークの会合で、諏訪先生が、ウィットに富んだ人の説明をされておられました。

 

かつて人は「人足(にんそく)」と呼ばれていたが、事務的な仕事も増えてくると足から手に代わり「人手」と呼ばれるようになる。その後、人は成果を上げるための材料ということで「人材」と呼ばれるようになり、その人材がスキルを高めて貴重な存在になってくると「人財」となる。

 

その話を先生がされたのは、NPO法人が主催している「キャリアコロキアム」という勉強会でのzoomでの席上。その勉強会では、「DX時代に雇用や仕事はどうなるのか?今後の目指すべき姿は何で、そこに至るには何が課題か?」といったテーマで参加者が小グループに分かれて討議がなされました。

 

「メンバーシップ型」とも呼ばれる、いわゆる日本型雇用は崩れ、「ジョブ型」雇用が増加していくのが、DX時代の趨勢ではないか、といった神戸大学の大内伸哉先生の基調講演を受けての討議でした。

 

私は、今年4月に発表される「第11次職業能力開発基本計画」(2021~2025年度)でもたびたび言及される「IT対応人材を育成する職業訓練の充実」といった項目はすばらしいが、実際に職業訓練を行っている現場から見ると、その計画通りに行くだろうか?といった器具がある、といった話を討議の場ではまず出させて頂きました。

 

DX時代に向けては、「IT対応人材を育成」する必要は必ず発生します。産業構造は大きく変わり、コロナ禍によってそれがより加速化されているなかでは、IT対応人材の育成は喫緊の課題となります。

 

しかし、それは机上で述べているだけでは、決してうまくいかないでしょう。

 

弊校でも「ゲームプログラマー養成科」といったIT人材育成につながる職業訓練を数年来やっていますが、①本当にこれから求められる人材を育成できているのか、②最先端技術を伝えようとしても、講師を手当てできるだけの予算がとれない、といった問題があります。

 

  • 本当にこれから求められる人材を育成できているのか

弊校でプログラミング言語としてはC#を教えているが、そこで育った人材は、多重下請けの構造をもったIT業界のなかでは、SESと呼ばれる客先常駐をメインとしたIT企業などに就職する事が多く、まずは下積み的なプログラマーとしての仕事に就く場合が多い。こうした人材の育成が、本当にDX時代の人材を育成していることになるのか、については議論が必要だろう、と思っています。

では、どのような人材が真にDX時代では求められていて、それにはどのような職業訓練の在り方が適切なのかについては、あまり議論が進んでいないように思えます。

先の会合でも、今までのような教育ではなく、刻々と変わっていく課題に対応できる人材、そもそも現状に疑問をもって新しい問いを発せられる人材、つまり自らの頭で考えられる人材が求められる、といった話が出てきていましたが、そうした教育訓練を、どのようにしたら行えるのか・・・。

 

  • 最先端技術を伝えようとしても、講師を手当てできるだけの予算がとれない

例えば、弊校でIoTやAI、ビックデータ、ロボットといった先端的な技術を訓練テーマとしたいと思ったとしても、それを教えられる講師を手当するのは、今の民間職業訓練校に割り当てられる国の予算の中では、難しいと思います。

そうした先端的な技術者の育成については、有料で民間の事業所が訓練施設等を設ける必要が現時点ではあるのかな、と思えるのですが、それではDX時代の人材育成には、量的な面での課題が生じてしまうのではないでしょうか。

 

ではどうしたらいいか。一つのヒントはeラーニング等の効果的な活用かもしれません。スキル等の伝授、知識の伝達といった事については、eラーニングを活用し、先に述べたような「自らの頭で考えられる人材」の育成についてのみ、ワークショップ等の形式を活用して、集合教育を行っていく、といったような制度を作ることです。

 

eラーニング化された先端技術の伝達システムがあるのであれば、それを活用し、グループワーク等の就業教育においては、スキルや技術をどう社会に応用して使いこなしていくか、そこには各個人の創意工夫や創造性(つまり自らの頭で考える)ということが必要で、それについては実際にこのようにしてやっていくんだ、ということが体験学習を通じて身に付いていくような、そのような職業訓練があったならば、いいということではないか、と思っています。

 

実際に世の中にインパクトを与えられるようなプロジェクトに、自ら関わっていく、といった体験型の教育もあろうかと思います。そうした所から本当にDX社会を担える人材が輩出されていくのではないか、とも思っています。